突然ですが質問です。下の写真に写っているCAD/CAM冠を見比べてください。この2つは同じものでしょうか?

舌側から

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この2つのCAD/CAM冠は、歯科技工上は「同じもの」とされていたものです。つまり同じSTLデーターを元に加工されたクラウンです。
しかしこうしてみると、形態は非常に似ていますが、バーの条痕による表面の違いでとても「同じもの」とは思えません。実はこれらのクラウンは元のデーターは同じなのですが、加工を行ったマシンが違うのです。
ここでみなさんに見てもらいたかったのは、たとえ同じ設計データーで加工しても、そのデーターをどれだけ再現できるか、ということは加工機によってこれほど大きな差がある、という事です。
写真の左側がモディアシステムズの「エクスマイル」。右側がデンツプライシロナのinLabMCX5で加工されたCAD/CAM冠です。

モディアシステムズ エクスマイル 一台約600万円

デンツプライシロナ inLabMCX5 一台約800万円
エクスマイルは先週新たに3台をスワデンタルCAD/CAMセンターに導入しました。
CAD/CAM冠加工におけるエクスマイルの特徴は、CADによる設計データーの再現性が非常に高いことです。
加工シミュレーション
その再現性を見るためにCAMソフトによる加工シミューレーションを見てみましょう。
加工シミュレーションでは加工の際の実際のバーの動きが作る表面と、クラウンの立体データーを重ね合わせて、どれほど一致するかを確認することができます。
通常、バーが作る表面とデーターとが一致しない部分は着色されて表示されます。
厳密な加工の再現性が求められるのは、やはり適合を左右する内面です。
もしスキャンデーターとCADの設計データーが完全で、そのデーターで完璧に加工が行われるなら、加工されたクラウンはピタリと模型に収まるはずですが、現実は往々にしてそのようではありません。
それはシミュレーションで着色で表現される未加工の部分が内面に存在すると、そこが支台歯と干渉するからです。

左:元になるCADで作ったクラウンのデーター。内面方向から見る。
中:Work NC Dental For 250iによる加工シミュレーション。オレンジ色の部分は加工されない
右:MillBox Forエクスマイルの加工シミュレーション。着色で表示される未加工部分はなく、完全にデーターの通りに加工される
左がEXOCADで作ったクラウンのデーター、真ん中がWorkNC、右がエクスマイルに用意したMillboxのシミュレーションの結果です。
真ん中のWorkNCのシミュレーションでは内面マージン付近と支台歯先端に接する部分にまばらにオレンジ色が見えます。このオレンジ色の部分が未加工で残される部分です。
実際にCAD/CAM冠を作ったことがある人なら分かると思いますが、この部分はいつもお決まりの場所で、ここを削合調整をしないと模型に収まらない部分です。
つまりこのシミュレーションの結果からは、このWorcNCで加工すると、加工後に手で調整しなければ模型への適合が得られないことがわかります。
次に右のMillBoxのシミュレーションでは、内面に着色表示がなく、この計算の時点では完全に加工されることが示されています。
このような完全なCAD/CAM冠の内面のシミュレーションはこの年になって初めて見ました。
これはエクスマイルの加工機としての優れた性能と、CAD/CAM冠でも5軸で加工するという事(実はCAD/CAM冠の5軸加工はめずらしい)、そしてMillBoxをエクスマイルのために設定した3Dデザインラボの上出氏の力量の組み合わせによるものです。
CADデーターに極めて忠実な加工
では改めてEXOCADのデーターと実際に加工されたクラウンとを見比べてみましょう。

左:EXOCADの設計データー / 右:MillBox、エクスマイルで加工したCAD/CAM冠
マージンの補強幅から内面の表面、外面の表面に至るまで極めて正確に加工され、CADデーターが再現されていることが分かります。

左:EXOCADの設計データー / 中:エクスマイルのCAD/CAM冠 / 右:inLabMCX5のCAD/CAM冠

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この3つの比較では、inLabMCX5ではマージン付近でオーバーに加工され、設計データーではそこにあるはずのマージン補強幅が消失しています。またバーの形状の違いのせいで内面の表面もちょっと違った感じになっています。つまりデーターの通りには加工されていません。
今回エクスマイルを導入して、それを基準としてみて改めて認識したのですが、CAD/CAM冠を加工する場合に、完全にデーターの通りには加工できない機種がけっこう多い、という事です。
加工表面の美しさ
またCAD/CAM冠の加工でのエクスマイルの特長に、注水ミリング方式による表面の滑沢さがあります。

左:エクスマイルのCAD/CAM冠 注水下ミリング / 右:inLabMCX5のCAD/CAM冠 注水下グラインディング
左のエクスマイルはカーバイトバーによるミリングで、もうすでにある程度の光沢があり、これだけ表面がキレイならば、研磨も非常に少なくて済みます。
それと比べて右のダイヤモンドバーによるグラインディングは深い条痕がのこり、これらを均してからでないと光らないので、それを削り取る分だけ設計データーから離れていくことになります。
したがってクラウン表面でもエクスマイルは設計データーの再現性が高いという事です。
このデーターの再現性が高い、という事はCAD/CAMの技工において非常に大切なことです。それは仮に逆の場合を考えてみればよく分かります。
つまり多大な労力をかけてCAD操作を行って正確なデーターを製作したにしても、それが加工の段階で無視されてしまうなら、誰も本気でCAD操作をしなくなるでしょう。
その結果としてどうせ手で修正するのならとCADデザインは適当に手早く済ませて、模型上での作業で勝負するという製作体制にとどまるか、またはCADを全く信用せず、ワックスアップによるダブルスキャンの段階にとどまるか、どちらにしてもそこでCAD技術の上達が止まってしまうのです。
このことは多くの技工所でCAD/CAMの技工の停滞を招いているのではないかと想像します。
口腔内スキャナーの普及によって、歯科技工の主役が石膏模型からデーターへと移り変わる時代もすぐそこまで来ています。今回のエクスマイルの導入は理由が別にありましたが、思いがけずこの時代に対応できる非常に強力なツールを手にしたと実感しています。
i-mes i-core350iの危機的状況
さてエクスマイル導入のきっかけですが、それは主力機の350iの不調にあります。
この春から色々な事象が重なり、350iの稼働が維持できなくなってしまったのです。

主力機i-mes i-core350i。CAD/CAM冠向けウェット設定は5台が稼働。

5台中4台が故障修理待ち
i-mes i-core350iの不調の原因は第一はこの4月に保険導入されたCAD/CAMインレーの存在です。CAD/CAMインレーは形状が複雑なのでクラウン形状のCAD/CAM冠よりも加工が難しく、スワデンタルでは最高の性能を持つ350iの一手販売でした。
そして2月のロシアによるウクライナ侵攻の影響で、原産国のドイツからの交換部品の供給が滞ったことに加えて、アイメスアイコア社の日本における代理店がストローマンジャパンに変更され、さらに部品の調達が困難になりました。
このような条件の下で5台の350iを使用して毎日大量のCAD/CAM冠を加工していたのですが、1台が故障するとその分の負担が残り4台に、1台当たりの負担が増えたことでもう一台がダウンして・・・と次々と故障して結局現在の時点で5台中4台が故障修理待ちの状態となり、これだけの設備を持って恥ずかしながら一部の加工を外注に出さざるを得ない、という危機的状況に陥りました。
海外資本のメーカーには時としてこのようなリスクがあることは十分に承知しているつもりでしたが、実際に直撃されるとずいぶんと応えます。そこで今回はそういったリスクのない国産の機械に取り組もうという事で、モディアシステムズ(埼玉県)のエクスマイルに白羽の矢が立ったのです。
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