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第9回ワールドデンタルショー2023

公式の発表によれば第9回ワールドデンタルショー2023の来場者は、3日間の合計で54494人(歯科技工士5948人)に達したそうです。


会場のパシフィコ横浜

会場のパシフィコ横浜

会場のパシフィコ横浜

このデンタルショーをCAD/CAMを専門としている歯科技工士の視点で振り返ってみると、いくつか注目すべき点がありました。


国産加工機の戦い 2023秋の陣


これまでの歯科用CAD/CAMは、国産のものは無くはないが性能的にイマイチ振るわず、ほとんどがドイツ・アメリカなどの海外製というのが普通でした。

ところが加工機だけは話が別で、最近にかけて非常に優れたものが出そろってきています。


キャノン電子の新型、MD-500W。注水下での金属加工に対応。

キャノン電子の新型、MD-500W。注水下での金属加工に対応。株式会社アイキャスト

キャノン電子MD-500W。FOLLOW-ME! Technology Groupe

同じくキャノン電子MD-500W。FOLLOW-ME! Technology Groupe

株式会社ジーシーの新型ブロック対応加工機、AadvaMillスーペリア

株式会社ジーシーの新型ブロック対応加工機、AadvaMillスーペリア。


歯科技工士が加工機に求める要件というのは、日本と海外でかなり差があります。


まず「CAD/CAM冠のブロックが加工できる」という事ですが、実は海外ではコンポジットレジンブロックの需要は全体の1%に過ぎず、この加工能力はさほど重視されていません。もちろん日本では必須の能力です。

そして単に加工できるというだけではダメで、「早く」、「適合良く」、さらに重要なのが朝から晩まで酷使しても「故障しにくい(繊細でない)」、それでいて「価格は安く」といったところでしょうか。


今までは数ある海外メーカー製の加工機の中から、これらに出来るだけ合致するものを選んで使っていたのですが、この数年で日本の機械メーカー側がこの「行き過ぎた」日本歯科技工士の要求を理解して、それに合わせた製品を作り始めています。


クラレノリタケデンタル株式会社のブース

クラレノリタケデンタル株式会社

ドイツでは大人気のアマンギルバッハ

ドイツでは大人気のアマンギルバッハ。


業者さんの気持ちを推し量って見ると、売るからには1台でも多く売りたいでしょうし、そのためには何か性能をアピールするポイントが欲しくなるのが当然と思います。

今回のデンタルショーでその加工機の性能のものさしとなったのが「チタンの加工能力」でした。


事の発端は株式会社アイキャストに展示してあったこのブロックです。CAD/CAM冠と同規格のチタンブロックで、もし非鋳造のチタン冠がCAD/CAM冠になったらこんなだろうという品物です。


株式会社アイキャストで展示のチタンブロック

株式会社アイキャストで展示のチタンブロック


これに合わせてキャノン電子は金属加工が可能な湿式加工機MD-500W、株式会社ジーシーも新型のブロック加工向けの湿式マシーン「Aadva Mill スーペリア」を展示していました。


ただ情報ではいついつに非鋳造のチタン冠が保険導入、という訳ではなく、将来的にそうなるのは時間の問題だろうから今のうちに開発しておこう、というのが実情のようです。


実際に製作に携わる歯科技工士としては、鋳造と非鋳造ではこれが同じチタン冠か、というほどに差があり、もちろん非鋳造の方が生産性でも品質でも優秀です。したがってこのチタン加工能力の獲得方向で加工機が進化していくのは好ましいと感じています。


チタン冠。同じデーターの加工直後

チタン冠。同じデーターの加工直後。左:非鋳造(ミリング) 右:鋳造 表面荒れに注目して比較してください。

鋳造法のチタンクラウンは研磨に恐ろしく手間がかかります。

上の写真のクラウンの研磨後の拡大

上の写真のクラウンの研磨後の拡大 左:非鋳造(ミリング) 右:鋳造 鋳造法のクラウンはそこら中に鋳造欠陥があります。


CAD/CAMで保険の総義歯を製作


DG Shape社で展示していた「デンチャー製作キット」では衝撃を受けました。これを使えば現行の保険制度のままで、保険適用のフルデンチャーの製作を自動化できます。


保険のフルデンチャーをCAD/CAMで製作可能にするデンチャー製作キット

保険のフルデンチャーをCAD/CAMで製作可能にするデンチャー製作キット

保険のフルデンチャーをCAD/CAMで製作可能にするデンチャー製作キット

保険のフルデンチャーをCAD/CAMで製作可能にするデンチャー製作キット


詳細はリンク先をご覧ください。


この方法では重合収縮の誤差を全く除外できるので、模型に対して極めて適合の良い床が得られる事をはじめとして数々の優位点があります。そして最大の利点が歯科技工士の省力化で、製作に要する時間は、加工機による加工時間を除いた手作業で1床25分という驚異的な時短です。


実際に使う前で申し訳ないのですが、この時点で思いつく問題点は、部分床義歯に対応していない事、ほぼ究極までコストカットされている従来法と比べて専用プレートやミリングバー、床用レジンなどコストがかかる事、そしてこの方法ためにCAD/CAM装置を一式を導入しなければならない、という初期投資の問題です。


また設備運用上も手作業は極めて短いものの、加工機の加工時間は1床4時間から5時間かかるという事で、この方法専用の加工機の配備が必要になると思います。


担当の方のお話を伺っても、義歯を専門にする歯科技工士が架工ほどCAD/CAMを使っていないこともあって、この機械の有無が導入の段階で多くの技工所にとっての壁になるようで、セールスもイマイチとのことです。


しかし視点を変えれば義歯専門の技工士を今からデジタル化するのではなく、すでにデジタル化している「クラウンブリッジの技工士に義歯を作らせる」キットとしてみると非常に有望です。


なぜなら彼らは普段、設備がないので義歯は作っていないが、もうすでにCAD/CAMを持っているし、しかも日常的にCADを行っているのでデジタルに抵抗がなく、このキットとモジュールさえ購入すれば明日からでも義歯製作を始めることが出来るからです。


いずれにせよ近い将来にはこういった新しい製品と工夫によって、歯科用CAD/CAMの適用範囲がデンチャーまで広がっていくのは間違いありません。


CADカービングコンテスト


チームデンタルラボジャパンによる「CADカービングコンテスト」も非常な盛り上がりを見せていました。


「CADカービングコンテスト」会場

「CADカービングコンテスト」会場

競技の様子

競技の様子。


これはこれまであった歯型彫刻コンテストのデジタル版です。CADソフトを使用して制限時間内に歯牙形状のデーターベースを使用せず、ゼロから己の力のみで指定箇所のモデリングを行います。


このような催しを見ていると、「CADの技術」も従来の技と比肩しうるまで伸びてきたことを実感し、それに関わるものとして大変喜ばしいです。


ただ「技を魅せる」というのであればもう少し違ったレギュレーションでの競技を見てみたい、とも感じました。

というのも「歯牙のデーターベースを使用できる」という事こそ歯科用CADの特長だからです。出場者の皆も普段の作業で歯牙データーベースを使用しない、という人は皆無でしょう。つまりデーターベースを使わないというのは両手を縛られた状態と同じです。


競技の様子

競技中の様子。終了1分前。


例えば隣の第9回日本国際歯科大会2023で行われていたような「完成品」のコンテストはどうでしょうか。つまりオリジナルの歯牙データーベースの完成度で競う形です。

仮にこの形ですと、製作した技工士(または会社)の技術力を示すことはもちろん、勝利した優秀な歯牙データーベースを各技工所に配布することも出来るわけで、業界全体のCAD能力の向上に寄与できます。


今後こういった「CADカービング」が競技として定着していくことを願っています。


Ciデンタルショー2023


当日のみなとみらい駅の周辺で目についたのは、かなりたくさんの人がこの巨大な歯ブラシを持ってたことです。


この巨大な歯ブラシを持っていた

この風船の歯ブラシは別会場で開催されていたCiデンタルショー2023で配られていたもので、風船を配ることによって会の開催を告知するというアイディアは代表取締役の清水清人氏のものだそうです。


ciデンタルショーの会場は横浜ランドマークタワー25F。パシフィコ横浜から見える

ciデンタルショーの会場は横浜ランドマークタワー25F。パシフィコ横浜から見える。


Ciメディカルは日本の歯科用CAD/CAMに対して少なくない影響力を持っています。

今回の加工機の争点である「チタンの加工能力」も取り扱いのモディアシテムズ株式会社のエクスマイルが有しています。ただ仮にブロック形状のチタンを加工するとなると、ホルダーの改良が必要になるそうですが、すでに部品の設計を終えているという事でした。


モディアシステムズ株式会社エクスマイル、DGSHAPE DWX-53

モディアシステムズ株式会社エクスマイル、DGSHAPE DWX-53。


またここでもDWX-53向けのデンチャー製作キットが展示されています。


定期的に送られてくるCiメディカルのカタログそのままの世界

驚いたのが会場が、あの定期的に送られてくるCiメディカルのカタログそのままの世界だったことです。



今回のデンタルショーでは非常に多くの口腔内スキャナーが展示されていたことも顕著でした。そのほとんどはSHINING 3D(中国)でしたが、もはや口腔内スキャナーは特別な道具ではなくなっていることを象徴しているように思います。


非常に多くの口腔内スキャナーが展示されていた



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