ワールドデンタルショー2023と並行開催された第9回日本国際歯科大会2023で以下の講演を聴講しました。
「トップセラミスト競演 後半」
座長:山田和伸
西村好美 湯浅直人 Naoki Hayashi Aki Yoshida
「デジタル時代のラボ経営&スタッフ教育」
座長:陸誠
村田彰弘 枝川智之 十河厚志
「コラボレーションによる補綴・咬合治療」
座長:中村健太郎
木村博之&森田誠 佐藤洋平&伊原啓祐 二宮祐介&小林恭之
会場の会議センター5B
タイムテーブルの一部
「トップセラミスト競演 後半」
数多くの講演が同時開催され、その中から選択する方式の本大会で、もしたった一つだけ聞くものを選ぶとしたら、多くの人がこの講演を選んだのではないでしょうか。
なんとこの1コマに、どちらか一方でも会場を満員にするであろう、湯浅直人氏と林直樹氏の両方が含まれています。
ある歯科技工士とお話しした際に、その方が言われた「湯浅は別格ですから」という言葉が印象に残っています。その方もこの大会で講演されている第一人者も第一人者の技術者なのですが、そこから見ても別格、ということでその凄さが想像できます。
会場の反応もそれを表しており、立ち見はおそらく100人以上いたでしょう。入口の扉が閉まらない程の超満員でした。
湯浅直人氏の講演。入口まで立ち見がいっぱいで扉が閉まらない
湯浅氏は氏の提唱する「画像合成試適」を行う際の基準となる陶材の構成と、各段階における技術上の目標についてお話しされました。これは画像合成試適法に取り組む歯科技工士にとって非常に重要な目安となります。
西村好美氏も「最近の若手の作るセラミックは本当に天然歯と見分けがつかない」とお話しされていましたが、その背景に湯浅氏の画像合成試適の普及があると思います。この講演で公開された内容によってさらに一歩、審美セラミック製作の標準へと進化したのではないでしょうか。
Naoki Hyashi氏の講演は、示される氏のセラミックワークのやることなすことのすさまじさに度肝を抜かれる思いで、「圧巻」の一言です。果たしてこの方を我々と同じ歯科技工士という枠で括ってよいのだろうかと真剣に疑問に感じます。
山本眞先生と青嶋仁先生
この講演に限らずこの大会に共通して流れていたのは、本年惜しくも逝去された山本眞先生と青嶋仁先生への哀悼の意です。
私も「ザ・メタルセラミックス」で歯科技工を学び、「内部ステインテクニック」でなりわいを営む、お二方に足を向けて寝られない者の一人です。直接お目にかかってお礼を申し上げるまでに、自分を高める時間がなかったことが本当に残念です。
「デジタル時代のラボ経営&スタッフ教育」
近年、歯科技工士教育における歯科技工所の役割が変化しています。
ありていに言えば歯科技工の主力となってきているCAD/CAMは、技工士養成校ではほとんど教えられないので就職後に会社で教えなければならず、その分だけ「人を教育する力」が以前よりも歯科技工所に求められている、という事です。
この症例のこの技術、というようにマクロに偏っていきがちなこの種の講演で、広く人材教育と組織運用にトップセラミストが触れるという事が珍しく、興味深く拝聴しました。
有限会社パシャデンタルラボラトリーの枝川智之氏は、今月号のQDTに「DXを意識した労働生産性向上と人材育成の両立 デジタル技工における時間を意識した労働生産性の向上」を寄稿されています。
この論文中でジルコニアインレーを素材に「剛性の高い機械」と「エッジロスへの対策」を柱として時短への取り組みが紹介されています。
「剛性の高い機械」と「エッジロスへの対策」はスワデンタルCAD/CAMセンターでも効率化の最重要な要素として注目しており、枝川氏の取り組みへ非常な親近感を覚えます。
「コラボレーションによる補綴・咬合治療」
最近、歯科技工士として強く意識するようになったのは「この仕事は一人ではできない」ということです。
もちろん歯科医師からの依頼があって、初めて仕事が発生するという歯科技工士の本質がありますが、それ以上に歯科技工士「だけ」がいくら頑張っても臨床上のいい仕事にたどり着くことが出来ず、つまりこの仕事の正体とは歯科医師とのコンビネーションにあるのではないか、という事です。
先の「トップセラミスト競演 後半」中でも湯浅氏も林氏も、双方冒頭で「どのように歯科医師に支台歯形成の必要量を伝達するか」という事の工夫についてに触れていました。
この点で歯科医師と歯科技工士のコンビネーションにスポットライトを当てたこの講演は秀逸です。
歯科診療所と歯科技工所が近所というのはもちろん、お互いの家まで近所で公私ともに密接な「デコボココンビ」佐藤洋平先生&伊原啓祐氏や、過度の長電話で奥様から「君たち女子高生か」と言われた二宮祐介先生&小林恭之氏のコンビに、日本の歯科医師と歯科技工士のコンビネーションの理想を見る気がします。
この日、東急東横線の元町・中華街行きの車中で、妙な高揚感を感じている自分に気付きました。
これからする事からすると、この高揚は自分でも不思議です。何せこの休みの日に、この先のみなとみらいで降り、受付けで¥34,000という自分にとって安くはないお金を払い、そしてただ人の話を聞くだけ、というのですから。
私が歯科技工という職に就いてから大分経ちますが、初めの頃にはこの種の仕事に対する高揚感はもっとあったように記憶しています。ところがこの職業が内包する矛盾に日々漬かっていると、その感覚はいつの間にか摩耗してしまうようです。
しかし彼らの話には再びそれを呼び起こすだけのパワーがあります。
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