いつもお世話になっている先生から、オリジナルのシェードガイドを作れないか?というお話がありました。
シェードガイドはチェアサイドから歯科技工所へ歯牙の色調を伝えるためのものですが、今回のシェードガイドは色調のマッチングのためというよりも、「実際に使う材料」で作る事に意味があります。
最近では審美的要求の標準が上がっているのか、保険のCAD/CAM冠でも「色が違う」と患者から言われることがあるそうで、ブロックの削り残りで構わないから実際はこんな色だよと事前に示しておきたいそうです。
そのものの材料でシェードガイドを作る意味
実はCAD/CAM冠というのは色調の調整を加えることが非常に困難な材料で、この点では技術的には上位とされているジルコニア冠の方がまだ簡単なぐらいです。
というのはジルコニアの場合ならポーセレンを盛ったり、ステインを塗布したり、あるいはイオン浸透で着色したりと、色調をコントロールするテクニックもアイテムも豊富にありますが、CAD/CAM冠の場合はこれらの手法は非常に制限されたものしかないからです。
つまりCAD/CAM冠はほとんどの場合、メーカーが用意した材料そのものの色で勝負するしかないわけですが、その材料そのものの色というのがメーカーや製品によってまちまちです。
例えば「A3」という指定でもブロックによってこれだけの差があります。
もはやCAD/CAM冠においてはビタのA3は「ちょっと濃い目の普通の色」といったニュアンスでしかありません。
以上のような状況に対しては「実際に使用する材料で作ったシェードガイド」が大変有効です。
今回のシェードガイドの設計データーは歯肉色ソケット部とバー部分を「Blender」で、歯冠部をバーに適合するインレーとして「EXOCAD」で設計しています。
歯肉色ソケット部とバー部分は「Phrozen Sonic 4K」で、歯冠部を「Canon MD-500S」で加工します。
歯冠部の加工
弊社ではCAD/CAM冠用のブロックはA1とA4がヤマキンKZR-CAD HR2を、そしてA2、A3、A3.5はトクヤマエステライトブロックⅡを使用しています。
切削加工後のシェードガイド歯冠部。この後通法に従って研磨します。
加工に使用したCanon MD-500Sは現在スワデンタルで増設を進めている機種です。
非常に剛性の高いシンプルな構造が特徴で、これにより正確な加工と、キャリブレーションフリーでエラーの少ない稼働を実現しています。おそらくスワデンタルでこれまで導入されたミリングマシーン中で最も故障が少ないです。
また加工の冷却に水を使用しないので日施メンテナンスも手間がかからず、加工時間も短い、という現行の機種の中で最もホットな日本の歯科技工士用の加工機です。
歯肉ソケット部の出力
歯肉色ソケット部はクルツァーの「ディーマプリントデンチャーベース」で出力します。
歯肉色ソケットは歯周組織からの赤みの反映を再現し、正確な比色のために必須です。
製品としては松風の「ガミー」が有名ですが、ガミーはシェードガイドが3本のセットが基本で、実際の作業では多少の不便を感じていたので、このガイドでは4本をセットできるようにソケットを増設しました。
「ディーマプリントデンチャーベース」で積層造形された出力物は気泡などもなく、研磨感で言えばCAD/CAM冠よりも硬質で、非常に艶が出ます。
同様にバー部分もクリアーレジンで出力します。
研磨後の歯冠部。
シランカップリング処理後、バー部分に歯冠部を接着します。接着剤にはコンポジットレジンA2(GCグレースフィル)を使用しました。コンポジットレジンはサンドブラスト、シラン処理されたCAD/CAM冠表面に対して、境目が分からなくなるほど一体化します。
このように最近歯科技工所に普及してきているCAD/CAMや3Dプリンターなどを使用すれば、シェードガイドのような規格を要する品物も、ゼロから自社で製作する事が可能です。
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