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歯科技工士の新しい役割

ここ最近は歯科技工所の仕事に、CAD/CAMがおおいに利用されるようになりました。スワデンタルにおいてもCAD/CAM関連の製作物が総売り上げの約半分を占めています。


このCAD/CAMの普及によって歯科技工士に、歯科医療の中での新たな役割が加わっています。その新しい役割とは「材料の専門家」ということです。


「材料の専門家」としての歯科技工士


この役割を最も強く意識するのは、歯科医院での立ち合いの時です。

立ち合いに向かった歯科医院で患者さんを前に、この症例ではどの材料を使うか、という事を先生と協議するのですが、このことがもはや立ち合いでの最も重要な仕事のひとつとなっているのです。


使用する材料の決定に、専門家としての歯科技工士のアドバイスが必要になったのは、セラミック材料、特にジルコニアの種類が非常に増えたためです。

現在は選択肢の中に多種類のジルコニアがあり、それらは一見するとすごく似ていますが、それぞれ全く性能が異なっています。これではどれが最善の選択となるか迷うのは当たり前です。


CAD/CAMセンターで出荷予定の棚を見て回ると、このケースではこのジルコニアが使われているがこっちのジルコニアの方が結果が良くなりそうだ、とか、このケースでこのジルコニアが使われているが、これで大丈夫だろうか、というような材料の選択に疑問を感じる事がよくあり、ジルコニアの選択というのが非常に高度で専門的な判断が必要なものなのだと実感します。


しかし材料の判断を正しく行うためには、その事についてのたくさんの判断材料が手元になくてはなりません。そこで日常、様々なジルコニアをいじくりまわして性質を熟知している歯科技工士の意見というのが価値を帯びてくるのです。


材料を「決める」事の重要性


もともと「材料を決める」というのは治療の結果を左右する重要で難しい問題です。


補綴物というものは部位や形状で求められる性能が違います。例えば前歯部では審美性、臼歯部では強さ、そして連結数が増えてロングスパンになっていくほど壊れないように強さが重視されます。


また、補綴の対象となる歯牙も患者によって色も形も千差万別で、ひとつとして同じものはありません。ですからこれらを対象とする補綴物の色も形も様々なものがあり、やはり同じものは一つとしてありません。


そこで我々専門家は、これら条件の異なる一つ一つの症例で、求められる審美性や強さ、形成の厚みなどを考え合わせて、どの材料を使うか、ということを決定します。


これに加えて現在の治療の主役がジルコニアになっているという事がこの問題をさらに難解にしています。

ひと口に「ジルコニア」といっても現在は入手できる製品の数が非常に多く、そのどれもが光透過性や強さといった性能が大きく異なり、様々な特徴を持っています。



スワデンタルマテリアルガイド
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多種多様なジルコニア


ジルコニアはセラミックスの中では圧倒的に丈夫で割れにくく、科学的に安定していて口腔内で安全で、材質そのものの色が白くて歯の色に近い、という歯科材料として理想的な性能を持っています。

これに加えてCAD/CAMの加工性能が改善されて、極めて正確に製作できるようになったことと、我々の製作テクニックも改良も加わり、今ではインレーのような小さなものからフルマウスのブリッジのような大きなものまで、どのような症例にでも利用することができるようになりました。


そしてジルコニアの特徴として見逃すことができないのが製品の展開の早さです。上述のように歯科医療での需要がものすごく高いので、メーカー間の新製品の開発競争が熾烈で、次々に新しい製品が市場に登場します。


スワデンタルCAD/CAMセンターのジルコニアディスクのストック棚。大量のディスク


現在利用可能なジルコニアはいったい何種類ぐらいあるのでしょうか。一つのメーカーに限っても世代の古い製品のラインナップと新しい世代のそれら、そして国内の他のいくつものメーカーにもそれぞれにそういった品ぞろえがあり、さらに海外のメーカーの製品・・・というようにおそらく100種類ではきかないと思います。


スワデンタルでも3M LAVA2種類(Plus、Esthetic)、Argen z Anterior、ジオメディルーゼンを5種類(ジルコニア、エナメル、スマイル、スマイルマルチ、エナメルマルチ)、ノリタケカタナYML、と計9種類のジルコニアを使用しています。


CAD/CAMセンターで出る削り終わりのディスク。藤原君の半日分。


スワデンタルでは、材料の判断を単純にするために、そして膨大な量のストックを作らないために加工するジルコニアの種類をできるだけ絞るように努めてきた結果、この9種類に落ち着いています。

逆にいえば、絞りに絞っても9種類もある、という事がジルコニアの性能の多様性を物語っています。


ジルコニアの性質はYで変わる


ジルコニアの歯科技工上の性能の指標は、光透過性、強さ、色合いの3つです。このうち光透過性と強さは添加されるイットリアの量で大きく変わります。

そしてジルコニアのメーカーが異なっても、Yで表されるイットリア含有量が同じならばほぼ同等の性能を持ちます。


イットリアの量はmol%で表され、現在は2Yと言われる2mol%から6Yと言われる6mol%の製品が主流です。

2Yに近い程、強さに優れるが光透過性が低くなり、6Yに近くなるほど光透過性が良くなりますが、強さが低くなります。


スワデンタルで最も強い製品は3Yのルーゼンジルコニア(曲げ強度1200±200MPa、光透過性38%)で、フレームやブリッジなど強度が必要なケースに使用されます。

そしてスワデンタルで最も光透過性に優れるのは5YのArgen Z Anterior(曲げ強度765MPa,

光透過性50%)です。最近では前歯部のフルジルコニアやジルコニアインレーなどに多用されます。


ちなみに最近では4Yと呼ばれる製品が強度と光透過性のバランスに優れ(曲げ強さMPa≧1100、光透過性45%)、主力の製品となっています。


そして色合いに関しては製造メーカーの個性が強く表れます。一般的に世代が新しくて研究熱心なメーカーの製品ほどシェードガイドに近似した色調を持ちます。


このようなジルコニアの特徴は、我々歯科技工士が一番よく知っています。それは普段から大量にそれらを加工し、仕上げを行っているからです。さらには選択を間違えるとどのように壊れるか、という事を再製作という形で数多く体験している、という事もジルコニアを知るという事では大変に重要です。


また、ブロックやディスクを付け替えるだけで異なる種類の材料でも同じように加工できる、という特性がCAD/CAMにはあります。そのCAD/CAMが歯科技工の中心になった以上、材料の多様性の傾向はこれからもずっと続きます。

そこでの歯科技工士の役割は、これまでのように「歯科技工指示書に書いてある材料」内で製作するという事に収まらず、歯科診療所で最善の選択が出来るように、材料の専門家として情報を提供する、ということがさらに重要になっていくと思われます。


患者に伝える「ジルコニア」


また歯科材料に関してもっと情報提供をしたい、という相手がもうひとついます。それは他でもないそれを装着する患者さんです。


例えば私などは、もし自分や自分の家族が補綴治療の対象なったら、使えるのなら必ずジルコニアを選択する、というほどに首までどっぷりと漬かっていますが、これは歯科医療従事者ならほとんどの方がそうなのではないでしょうか。


ところが患者さんと話してみると、それほどジルコニアに関して知っておられない、という事が多く、我々とのギャップがあります。

立ち合いの際に、先生と患者さんとで協議して治療方針と合致する材料を決める際に、まずジルコニアとは何か、というところから説明しなければならない、という経験をする度に、患者さんにもっとよく材料の事を知ってもらう必要性を感じます。


この時の患者さんの姿勢をざっくりと表現すると、ジルコニアというものが何となく良いものだとは知っているけれど、何より信頼している先生が勧める材料だから、というものです。

このような少し受け身の姿勢でも、我々の製作する物を選んでいただいているので、十分に有難いのですが、今一歩前進して自主的にジルコニアを選んで頂きたい、そして患者さん自身の治療結果への納得につなげて頂きたい、というのが私の切なる願いです。


そこでスワデンタルで患者さん向けのツールを製作しました。




このツールはA4三つ折りのリーフレットで、歯科医院ではよく見る規格です。最近では説明はタブレットで行うのが普通になりましたが、この紙の規格にしたのは、立ち合いで患者さんとお話しした経験から、パッと差し上げてしまえる資料の必要性を強く感じたからです。


患者さんとお話しするとき、患者さんはユニットに座っています。このユニットの上にいるというのは私自身の経験から照らし合わせてみると、歯質を失った喪失感であったり、痛みに対する緊張だったり、治療に対する覚悟だったり、早く帰りたい気持ちなどが混在していて、とても物事を冷静に考えるというような状態ではありません。


この状況の中で口頭の説明だけ、というよりは、やはり歯科医院から出た後でゆっくりと検討する際に、手元に資料があった方が親切だと思うのです。


またA4用紙2枚分の情報量では不十分だと思うので、さらに詳細なサイトも同時に製作しました。これは待合室でスマホからでも見れるようになっています。


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