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新型のモデルスキャナーT710

少し前のことになりますが、5月にスワデンタルCAD/CAMセンターに新型のモデルスキャナーを2台導入しました。

 

導入したのはMEDITのT710型で、販売はCiメディカルです。


新しい機械の導入は、我々勤務する技工士にとっては大変喜ばしいものですが、今の時期、モデルスキャナーを新たに導入することは歯科技工所として多少の抵抗がありました。


それは近々、口腔内スキャナーが保険導入される、という情報がまことしやかに流れているからです。

もし口腔内スキャナーが保険導入されれば、従来の印象材の使用は激減し、つまり石膏模型も激減するので、石膏模型をスキャンするための機械であるモデルスキャナーは、高価な機械であるにも関わらず使われない装備になってしまいます。


そうであるにもかかわらず新しいモデルスキャナーを導入せざるを得ない状況となったのは、4月のCAD/CAMインレーの保険収載があったためです。

CAD/CAMインレーが登場したことによる受注の増加は、我々の予想をはるかに超えたものでした。


おそらくロシアのウクライナ侵攻によって金やパラジウムの価格が高騰したことが背景にあると思いますが、これらの金属を使用しないCAD/CAM冠は、インレーが加わった分だけでなく従来のクラウンも同じ時期に受注が増加しました。


ともかく4月を境にCAD/CAM冠の受注がそれ以前の1.5倍から2倍になる日も珍しくなく、何らかの方法で生産能力を強化する必要が生じました。


このような場合の特効薬はもちろん人員を増加する事です。ところがCAD/CAMの技工で最も時間を要するのは人材の育成なのです。

幸いなことにスワデンタルに入社してくれるCAD/CAM志望の新人技工士は、ここ数年はかなりの数がいます。彼らには大いに期待していますが、彼らが実力を発揮するようになるには、まだかなりの年月が必要で、この急場をしのぐには別の手段が必要です。

そこでとりあえず設備を充実することで技工士の業務の効率化を図ることになりました。


主力機inEosX5の問題点


現在のスワデンタルの主力のモデルスキャナーはデンツプライシロナ社のinEosX5です。グループ全体だと8台が稼働しています。


なぜ単にinEosX5を増設しないで新しいT710 を選んだかといえば、inEosX5に以下の2つの問題があったからです。


問題の一つはinEosX5はスキャンの正確度は非常に高いのですが、スキャンの速度はやや遅い、という事と、そしてもう一つは最近になって非常に故障が多くなった、という事です。


特に故障の多発が問題で、スキャンの遅さを台数の多さでカバーする、という使い方をしていたのですが、メーカーのサービスでなければ復帰しない故障を起こしてしまうと、すぐにスキャンが渋滞を起こしてしまいます。


CAD/CAM冠は保険診療で使用される関係で、納期は出来るだけ早くすることが求められており、結果としてスキャン、デザイン、グラインディングのスケジュールはかなりタイトに設定されています。

仕事の始まりであるスキャンに時間を使ってしまうと、後の工程での調整が非常に難しくなります。


故障の対策は弊社CAD/CAMセンターの三浦とデンツプライシロナの専門家青山進一郎さんが積極的に行ってくれました。その結果として原因がどうやらVer20になってデザインソフトとCAMソフトが統合されたことにあり、それは機械側の我々歯科技工士では手の出せない領域にあることが分かりました。

つまりこの問題を根本的に解消するには、今の機種以外のものを使う必要があります。


スキャナーの「正確度」を左右するエッジロス


補綴物製作において「正確な印象」というのが何よりも大事という事は、議論の余地がないところです。

inEosX5は2013年に発売された、この業界ではもはや旧式と言って良い機械ですが、現在においてもスキャンの正確度は随一です。そしてその正確度の秘密はエッジロスの少なさにあります。


エッジロス現象は山本眞先生が提唱された光学印象の宿命で、尖っている部分が実際よりも丸まって印象される現象です。このエッジロスが多い機種とそうでない機種とがあるのです。



上の画像はinLabX5と他社スキャナーで同一のインレー窩洞をスキャンしたものです。他社スキャナーの画像が尖っている部分が丸まり、全体に「なめられ」状態なのが分かるでしょうか。

このなめられがエッジロスです。実際にはこのなめられ部分に鋭縁が存在するので、それがないものとして加工された補綴物はマージン部で干渉を起こします。


最近のモデルスキャナーは、平面の部分はどの機種でもズレなくほぼ正確にスキャンできるようになっています。最後に残った課題が尖った部分をどれだけエッジロスなくスキャンできるか、という事なのです。


MeditのT710はモデルスキャナーでは最も後発の製品です。最近はスキャン操作にかかる時間の短さをメーカー間で競う傾向がありますが、T710も操作はinEosX5と比べて非常にクイックでストレスがありません。この分だとスキャンの業務も相当圧縮できそうです。


では実際のスキャン画像はどうでしょうか。同一のインレー窩洞を撮り比べしました。




こうしてエッジロスに注目してみると、T710はinEosX5に及ばないことが分かります。


しかし平面の部分ではT710もinEosX5もほぼ同等の結果でした。

そこでインレーの窩洞や前歯部の支台歯など尖った部分や、薄い部分がある模型は従来通りinEosX5で、小臼歯や大臼歯の支台歯のようにそういった部分がなく、エッジロスが適合に影響を与えない模型にT710を使用することにしました。


使われないままのT710


そして導入から2カ月が経ちましたが、T710は残念ながらほとんど使用されないままになっています。

岡田君たちスキャンの従事者たちは故障と折り合いをつけながら、何とか工夫してinEosX5で日々の業務をこなしてくれています。


T710が敬遠された理由の一つは、一つの作業に違った操作を必要とする複数のソフトを使う事の難しさです。

このことの気後れと実際の面倒さは、CAD/CAMの技工に従事したことのある人にとっては共通理解だと思うのですが、体験したことのない方にどう伝えたらよいか、適当なたとえが思い浮かびません。


例えば計算問題と英語の記述問題を同時に取り組むようなシチュエーションなら、そのミスの多さということだけは似ています。


また我々のスキャンの業務は効率を求めて日々洗練されて行って結果、相当高度に専門化されて、異なるソフトが入るとブレーキになるほどの域に達していたということです。


もう一つの、そして最大の理由が「デザイン時にマージンの設定が不確かになる」という事です。

マージンのエッジがはっきり出ていれば歯科技工士がデザイン時にマージン設定に迷う事がありません。何ならEXOCADならソフトの自動検出で修正なしでも十分です。

ところがエッジが消失していると、後で模型にはめて調整することを前提に、最後に短くならないように考えて点を打っていくのでマージンの設定に相当の時間がかかってしまうのです。

inEosX5のスキャンデーターへのマージン設定。エッジがはっきりしているのでここだという点を打つのに迷うことはありません

T710のスキャンデーター。エッジが丸まっているのでマージンの設定が上の線か下の線かはっきりしない。

結果としてマージンが短くなるよりは、と下の線で加工しておいて模型上で調整、ということがほとんどです。


こうして我々の規模の歯科技工所で機種選定することの難しさを、改めて痛感することになりました。

しかしスワデンタルCAD/CAMセンターの歯科技工士たちが「より良いものをよりよく作れるなら、多少の手間を惜しまない」という考えを持っていることも同時に確認できました。


日々の臨床に追われて、会社としてこういったことを養成する機会はあまりなく、非常に心苦しく思っていたのですが、皆が自然と歯科技工士として正しい方向を身に付けているという事が大変うれしくもあり、とても誇らしく感じます。

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