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日本は口腔内スキャナーでモデルレスになるか?

私は20代の頃に、アメリカ合衆国のイリノイ州にあるAncer Dental Labratoryという技工所で働いていたことがあります。そこでは数々の米国と日本の「歯科の違い」を体験しました。


今すぐに思い出せるのは、隣の州から車で2時間半かけて、シェードテイキングのために技工所へとやってきたご夫妻のことです。

米国では歯科医師の指示で患者が歯科技工所を訪れ、補綴物製作の要望を歯科技工士と話し合う機会があるのです。そのための応接の設備も技工所にありました。


このご夫妻は最も極端な例で、さすがにお疲れの様子でしたが、このように技工所を訪れる患者さんとお会いするたびに、患者さんの補綴物に対する関心の高さに感心したものです。

その後の約20年の日本での技工生活の中で、技工所にシェードテイキングで訪れる患者にお会いする、という経験は一度もありません。


さて、ここで患者の補綴物製作に対する姿勢を例にとって日本と海外の歯科の違いに触れたのは、最近、歯科用CAD/CAMに関する大きな違いについて言いたいからです。


その違いとは、口腔内スキャナーが普及することによって起こるとされている「モデルレス」についてです。



模型がなくなる日


現在の補綴物製作の主流は、歯科技工所で製作を行う間接法です。間接法には歯科技工所で使用する石膏模型と、それのための印象材の作業が必須です。口腔内スキャナー以前の印象材と石膏は、混水比や気温、湿度によって寸法に相当の誤差があり、また印象作業の上手下手によって結果が異なる、という事がありました。


ところが印象作業が口腔内スキャナーによってデジタル化されれば、印象作業に印象材がいらなくなり、印象材に流す石膏模型も使わなくなり、これらの印象材石膏が持っていた宿命的な誤差から歯科技工士が解放され、さらには模型製作をしない分だけ、製作の手間が少なくなる、というのです。


しかしこの「モデルレス」も考えかたは、実は製品の口腔内スキャナーとセットになって海外から輸入されたもので、日本の歯科の特殊な状況下では、少し違った様相になるのではないかとスワデンタルでは考えています。

 

その日本での様相とは「日本で口腔内スキャナーは、簡単なプリンター模型とセットで普及する」ということです。


「日本で口腔内スキャナーは、簡単なプリンター模型とセットで普及する」


このように考える要因は2点あります。その一つは「日本の歯科医療ではスピードが求められている」ということと、もう一つは「3Dプリンターの急速な発展」です。


日本の患者は、自分が通う歯科医院を選ぶ際に「待たない」という事を重要な判断基準にしています。また歯科医院側は決められた時間内に、できるだけ多くの患者を診察しなければならないため、診療業務の回転を非常に重視しており、術者と患者の双方がスピードを求めています。


これに対して日本の歯科技工士はチェアサイドでの調整が少ない、出来れば無調整でセットできる補綴物の製作、という事が求められています。このことは無言の内に補綴物製作のサービスに含まれ、半ば義務化しています。この義務感の有無が、私が感じる日本と海外の歯科技工士のもっとも大きな違いの一つです。


海外では、いかに精密に印象したとしても患者の顎は日々変化するので、最終的な調整は実際の患者の顎でするのが最善、とする考え方が一般的で、むしろ調整するのも仕事の内、という事でそのための時間も予約に含まれており、私たちへの指示もコンタクト強め、バイトも強めという事が多くありました。このチェアサイドでの調整への抵抗のなさが「モデルレス」の考え方の基礎になっていて、日本と大きく違うところです。


セット時に無調整の補綴物を製作するために有効な作業があるとすれば、それは患者の顎と全く同じものを用意してセットのデモンストレーションをしてみて、あらかじめ調整しておく、ということです。


つまり完成補綴物に対して模型上で精査するという工程が日本の歯科技工では絶対に必要で、ここで我々が見逃した未調整部分は、そのままチェアサイドでドクターに調整させることになります。


さて問題は「患者の顎と全く同じ模型」を用意できるかどうかという事です。印象材を使用しない口腔内スキャナーでは、模型の出力に3Dプリンターが必要になります。

この3Dプリンターで出力された模型、というのがつい先ごろまでゆがみや寸法の変化が大きく、あまり信用のならないものでした。さらに機器や材料が非常に高価で、取り扱いも危険で高度な訓練が必要、ということで「モデルレス」の考え方には、この厄介な3Dプリンターの模型の出力を省略する、という意味も含まれていたと思います。


このような状況を打ち破ったのが最近の驚くべき3Dプリンターの発展です。特に扱いが簡易なLCD方式のプリンターと水洗いレジンの登場が革命的です。



革命的なプリンターとレジン


LCD方式のプリンターは非常に簡素な構造と、それによる扱いの簡単さと、機器の安価が特長で、以前は1台数百万円した3Dプリンターが、1台20万円ほどで導入できます。これによって台数を揃えることで、非常に効率よく模型を出力することができます。

また本来はホビーの業界から発展してきた機械のようで、扱いに特殊な訓練やソフトは必要ありません。


さらに重要なのは水洗いレジンの登場です。これはその名のごとく出力後の洗浄に無水アルコールが必要ないレジンです。

水道水で洗う事が出来る、という効果は字面以上に実際の手間において圧倒的に使い勝手が良く、さらに2次重合の収縮も少なく(従来のレジン1.0%→水洗いレジン0.05%。超硬石膏と同じぐらい)、価格も1キロで従来レジンの15分の1程度と、言う事のない材料です。


ただし欠点としてはメーカーが保証するレジンの強度、寸法は1ヵ月程度ということです。しかし日本の補綴物製作のサイクルでは、この程度であれば問題ありません。


これによってスワデンタルの3Dプリンター模型の出力単価が以前は¥2,000(これでも実際には赤字ですが、歯科技工所の常識として模型にこれ以上の値段をつけることができません)でしたが、¥300以下になり、経済的にはモデルレスにする理由が消失しました。


また私が実際に口腔内スキャナーの仕事から感じる、従来法に対しての優位のなかに「極めて正確な中心咬合位の伝達」があります。

これは印象精度も非常に優秀であることに加えて、ワックスやシリコーンなどの噛み合わせを邪魔するバイト材を介在させることがなく、そして確実に中心咬合位にあることを視認しながら印象採得ができ、さらに歯根膜にしっかりと咬合力が加わった状態で記録できる、という事が要因です。


これらの要因は現行の口腔内スキャナーと比べると、従来法は全く不完全で、いったい今まで何を根拠に正しいと信じていたのか、と疑問に感じるほどの差があります。


この正確なバイト情報を補綴物設計と完成物診査に利用すれば、極めてチェアサイド調整の少ない補綴物を製作することができます。




そしてこれを実行するのに最後に残るのは「3Dプリンターの正確な出力」という問題です。機器の改良でかなり改善されたとはいえ、実はまだまだ3Dプリンター模型の精度は不安定です。

また非常に新しい分野なので、いまだにこうすれば正確に出力ができる、というエビデンスはおろか、セオリーすらあいまいなのが現状です。


3Dプリンターは現在恐ろしい程の勢いで発展しているので、いずれは優れたものが登場すると思います。本質的な解決はそちらを期待するとして、今必要なのは、現行の機種、材料で安定した模型を出力する方法です。

 

この「安定したプリント模型を得るために機器を調整する基準」を弊社CAD/CAMセンターの三浦がまとめてくれました。以下のPDFよりダウンロードが可能です。


3DP manual
.pdf
ダウンロード:PDF • 2.12MB

これはスワデンタルCAD/CAMセンターで3Dプリンターを導入してこの数年の数々の経験と、一般ホビー業界からの情報が基になっています。

 

これらの工夫によって「患者の顎と同じ模型」が簡単に得られるようになれば、「モデルレス」であることにこだわる必要がありません。

これがスワデンタルが「日本で口腔内スキャナーは、簡単な3Dプリント模型とセットで普及する」と考える理由です。

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