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IDS2023

株式会社スワデンタルはドイツ連邦共和国ケルンで開催される国際デンタルショーIDS2023の視察を行いました。

前回開催の2021年度はパンデミックによる渡航規制が厳しくて参加を断念したので、スワデンタルとしては前々回2019年以来、4年ぶりの参加となります。


会場のケルンメッセ

会場のケルンメッセ


ケルン市はドイツ中西部にあります。日本から飛行機で16時間、列車で1時間の距離

ケルン市はドイツ中西部にあります。日本から飛行機で16時間、列車で1時間の距離。


国際デンタルショーIDSは「世界をリードする見本市」と言われ、歯科業界へ非常に大きな影響力を持っています。


その影響力の大きさを表す一端に開催規模の大きさがあります。公式の発表によれば2023年度の総展示スペースは180,000㎡、そこへの来場者数は120,000人、出展企業は1788社ということでした。


これを国内のデンタルショーと比べてその大きさを想像していただきたいのですが、昨年10月の東京デンタルショー2022は展示スペースが17,020㎡に来場者が13,830人、

今年1月の第49回横浜デンタルショーは出展企業が172社に来場者が5,268人、

国内最大規模で4年に一度開催される日本デンタルショーは昨年3月にパシフィコ横浜で開催され、出展157社に11,021人というそれぞれの公式の発表ですので、IDSは日本での大きなデンタルショーのほぼ10倍の規模に相当します。


この巨大さのために単に見て歩くだけでも2~3日かかる、などと言われています。


会場入り口。IDSは今年で100周年だったそうです。

会場入り口。IDSは今年で100周年だったそうです。


会場入り口。IDSは今年で100周年だったそうです。

歯科用CAD/CAMはケルンで進化する。


また歯科へのCAD/CAMの普及と、歯科業界のある「慣行」のために、IDSは近年ますます影響力を高めています。

その慣行とは「歯科用CAD/CAMを開発、販売するほとんどすべての主要なメーカーが、このIDSを機会に新製品を発表する」というものです。


なぜ新しい機械の情報が我々にとってそれほど重要かと言えば、歯科用CAD/CAMに以下の特性があるからです。


その特性の1つはCAD/CAMを用いた補綴物製作においては、機器とそれに備わった機能の「性能」というものが品質を左右するの最大の要素である、という事です。

我々がどのような物をどのように製作できるかという事は機器によって決まり、機器間の性能差は時に越えることのできない絶対的な壁となります。


そして特性のもう1つはこれらの性能の更新が非常に短期間で行われるという事です。歯科用CAD/CAMは現在猛烈な勢いで発展している分野で、わずか数年前の製品でも性能が陳腐化して使用に耐えなくなることはざらにあります。


これらのCAD/CAMの特性と上の慣行のために、2年に一回開催されるIDSを節目として歯科用CAD/CAMの性能の更新が行われる、と理解していて問題ありません。


そして日本から参加する我々にとってはさらに重要度が高まります。というのは普段我々が使用している歯科用CAD/CAMはほとんどが海外製だからです。


最近ではミリングマシーンだけは国産で優れたものが登場してきましたが、これを動かすCAMソフトはほぼ海外製です。そしてスキャナー、CADソフトは国産のものは片手の指が余るほどしかなく、性能も特に格差が大きいです。


これらの優れた海外製歯科用CAD/CAMは大抵の場合、使用のための「手法」もセットになってすぐに使える状態で輸入されてきます。つまりIDSで発表された有望な新製品は、取り扱いディーラーの決定や医療認可などのタイムラグを経て、数カ月から数年後に日本で流行る、という事になります。


歯科用CAD/CAMが今も今後も臨床に非常に有効で最重要な技術であるという事は疑いがありません。しかし使用される機器類は恐ろしく高額のくせに上の理由で寿命が短いので、これらをできるだけ有効活用するためには、IDSで歯科用CAD/CAMの進化の方向性を知り、投資や人材育成のための予備知識を収集するという事が大変重要です。


2大メーカーの激突再び。IDS2023の注目は?


さて、IDS2023の注目のメーカーや新製品ですが、まず第一にデンツプライシロナ社でしょう。会場に入ってすぐのところに最大級のブースを構えており、新しい院内向けの3Dプリンターシステム「プライムプリント」や、新型の口腔内スキャナー「プライムスキャンコネクト」を展示し、大変な盛況でした。おそらく今回IDSに参加した人でこのブースを訪れなかった人はいないのではないでしょうか。


デンツプライシロナ社のブース。の一部

デンツプライシロナ社のブース。の一部。

新型医院内用プリンター、プライムプリント

新型医院内用プリンター、プライムプリント


デンツプライシロナ社のブース

口腔内スキャナーは「デジタルデンティストリー」の入り口に当たります。

歯科補綴の主役が石膏模型からデジタルデーターに移り変わっても、印象の正確度の重要性は今も昔も変わりがありません。デジタルデンティストリーがより便利で確実な方法になるかどうかは、口腔内スキャナーの性能如何にかかっているといって良いです。

それだけに新型機には非常に高い関心が寄せられています。


デンツプライシロナ社の「プライムスキャンコネクト」は現行機のプライムスキャンの改良機です。


プライムスキャンコネクト

デンツプライシロナ社の新型口腔内スキャナー「プライムスキャンコネクト」

スキャナー部分は従来機と共通でノートパソコン接続式を採用、利便性と低価格化を狙う。


現在の口腔内スキャナーのトレンドは使用時の利便性と低価格化を狙って、キャスター付きの専用筐体からノートパソコン接続式を採るようになっています。

「プライムスキャンコネクト」も従来機と同じスキャナー部分とノートパソコンの構成です。


そしてこのデンツプライシロナ社の「プライムスキャンコネクト」の対抗馬と目され、会場で注目を集めていたのがスリーシェイプ社の「トリオス5」です。

「トリオス5」は現行のトリオス4の改良軽量化版です。


トリオス5

スリーシェイプ社、トリオス5


スリーシェイプ社のブース

スリーシェイプ社のブース。


スリーシェイプ社のブース

この新型の口腔内スキャナーを巡ってデンツプライシロナとスリーシェイプが競い合う、という様相は「プライムスキャン」と「トリオス4」が発表された2019年と同じ構図で、4年後に2大メーカーが再び激突することになりました。



デジタルデンティストリーの「カギ」、口腔内スキャナーの使用が

増加


スワデンタルの最近の傾向では口腔内スキャナーの使用が急増しています。

以下のグラフはスワデンタルでの口腔内スキャナーの受注が初めて月産1000症例を越えた2022年11月の統計です。


スワデンタルCAD/CAMセンターの2022年11月の口腔内スキャナーの症例の受注数

スワデンタルCAD/CAMセンターの2022年11月の口腔内スキャナーの症例の受注数。

全体で1043症例。注目はデンツプライシロナの圧倒的なシェア。


スワデンタルCAD/CAMセンターでは現在一ヵ月に5000症例のCAD/CAM関連補綴物の製作を行っているので、その20%の症例で口腔内スキャナーが使用されていることが分かります。


2020年11月の口腔内スキャナーの受注数

2020年11月の口腔内スキャナーの受注数。トータルで231症例。

2022年のデーターと比べると症例数が急激に増加していることが分かります。


2020年の同時期のデーターで月産231症例程ですので1年間で約2倍ずつ、この2年で約4倍の増加です。

また使用された口腔内スキャナーのメーカーの内訳を見ると、デンツプライシロナ社が次点以下を4倍近い大差で引き離しています。


このデンツプライシロナ社の口腔内スキャナーの圧倒的なシェア率は、同社の製品が持つ「日本適性」の高さに拠ります。


スキャナーの日本適性とは


日本の歯科医療の諸外国との大きな差の一つに、非常な効率・スピード重視の傾向があります。

これは政府の国民健康保険が大規模・徹底的に運用されているために、限られた時間で数多くの診療を行うことが定着しているためと想像します。

我々日本の歯科医療従事者はこの国民健康保険の存在という事を抜きにしては日常の業務が成り立たず、組織運営や技術上にも非常に大きな影響を受けています。

そしてそれは当然、口腔内スキャナーに要求する性能にも影響します。


スワデンタルの顧客に口腔内スキャナーを導入する動機、または導入した理由を尋ねると、ほとんどの先生が「今使っている印象材と置き換えて、補綴業務をより効率よく行う事が出来るか」ということが目的であると答えています。


では効率向上・スピード重視に合致した日本の歯科医療向きの口腔内スキャナーとはどのような物でしょうか。これは大きく分けて「チェアサイドでの使いやすさ」と「スキャンの信頼度・正確度」の2つが大変重要です。


「チェアサイドでの使いやすさ」というのは、肝心かなめの印象採得が容易かどうかという事ですが、ここが不便であっては印象材と置き換える意味が不明瞭になってしまいます。


歯科技工所で使用されるラボスキャナーは対象の石膏模型をセットしておけば、ほぼ全自動でスキャンされるため、片顎でも全顎でも手間にほとんど差がありません。むしろCADでの顎運動の再現という事では左右どちらの運動時のファセットが読める「全顎」印象の方が断然有利です。さらに印象材のように材料費が多くかかるわけではないので、全顎の方が情報量が多い分だけお得だ、とすら思っています。この歯科技工士の思い込みで以前手痛い失敗をしたことがあります。


ある口腔内スキャナーを使用した印象に立ち会った際に衛生士さんに上のような理由で全顎の印象を要求したところ、それならば印象材の方が楽だと言われてしまったのです。

衛生士さんがおっしゃるには、口腔内スキャナーの印象では撮り終わりまで操作で患者に付きっきりになるけども、印象材ならトレーを噛んでもらって固まるまで待つ数分の間にほかの事ができる、というのです。つまり「片顎と全顎で手間が同じ」ということが光学印象と印象材で、そしてチェアサイドと歯科技工所で真逆だったのです。


「使いやすい」に大きく関与する「スキャン範囲の大きさ」


このような点を踏まえて、「使いやすい」にはどういう要素が大切かというと、スキャナーのスキャン範囲が大きく、被写界深度が深いと大変有利です。人間の顎の大きさのものを一気にスキャンできるという製品はいまのところ存在せず、どの機種でも部分部分のデーターをつなぎ合わせて顎の3Dデーターを作成します。

スキャン範囲が大きく、被写界深度が深い、という事は部分部分のデーターそれぞれが大きいという事です。1枚1枚のデーターが大きければ顎全体を構成するのに枚数が少なくて済み、撮影枚数が少ないということは印象そのものが早く終わるという事で、さらに合成時の顎データーのゆがみも少なくなるので正確度も向上します。

つまりこの「スキャナーの撮影範囲が広い」という事が、口腔内スキャナーの日本適性に関して最も重要な要素となっています。


口腔内スキャナーの日本適性のもう一つの要素、「スキャンの正確度」ですが、印象が正確であればあるほど良いというのは議論の余地がありません。

特に我々が日常の業務で最も重要視している「適合」の良し悪しは、このスキャナーの正確度如何にかかっています。


「適合」つまり術者が想定した位置に補綴物がどれだけピタリと来るか、という事ですが、この位置が想定通りであれば、セット時にコンタクト・バイトの調整が必要なくなり、非常に効率が良くなります。


「正確な口腔内スキャナー」でセット時間が劇的に短縮


特にクラウンブリッジの自由診療の主役であるジルコニアは、このセット時の調整を出来るだけ少なくする事を狙う場合に、従来のどの歯科材料よりも印象の正確度を要求するという特性を持っています。

というのもジルコニアは焼結時の収縮以外に誤差が発生する工程がなく、従来の鋳造法がまったくあいまいに思えるほど極めて厳格に製作されているので、印象の良し悪しが直に適合に影響する、という事と、そして他の歯科材料と比べて表面硬さが1300HVと断トツで硬いのでセット時の調整・研磨に手間がかかるためです。


そしてジルコニア以上に正確度が重要となるのがインプラント上部構造体の製作に用いる場合です。


スキャンボディを用いたデジタル印象は、トレー法のシリコン印象とは比較にならないくらい正確にインプラントの埋入深度と埋入角度を歯科技工士に伝達できます。

そして使用が一般的になったカスタムアバットメントと、そのカスタムアバットメントに装着するクラウンも双方CADで設計されるために、印象データーに対して誤差なく製作できるなど、従来法に対して口腔内スキャナーの効率化の強みが最も発揮される場面ですが、これもスキャナーの精度と正確度があっての話です。


実際のスキャンデーター2機種撮り比べ


それでは実際のスキャンデーターを観察してみましょう。対象は現行のデンツプライシロナ社プライムスキャンと性能的に対抗機種とされているスリーシェイプ社トリオス4です。


観点は印象の結果のバラつきを表す「精度」と、印象がどれだけ対象を正確に写し取るかという「正確度」の2つです。


「精度」は同じ対象を2回スキャンし、そのデーターを重ね合わせてズレを距離に応じて着色、ゆがみを可視化して観察します。


データーを重ね合わせてズレを距離に応じて着色

データーを重ね合わせてズレを距離に応じて着色

ゲージの単位は㎜

ゲージの単位は㎜。青の部分は一致を表す距離ゼロ、赤い部分では2つのデーター間に0.1㎜のずれがあることを示し、

それだけスキャンがゆがんでいることを表します。

青い部分が多ければ多い程2つのデーターが一致する

青い部分が多ければ多い程2つのデーターが一致することを示し、つまり「精度」が高いことを表します。

逆にカラフルな場合はその分だけゆがみが多いことを表します。


試しに同じ石膏模型をスキャンしたデーターを重ね合わせて「ズレ」を検出してみましょう。このように結果にばらつきのあるスキャナーの2つのデーターを重ね合わせると、このように各所のゆがみによってカラフルになります。


複数回スキャンしたデーターを重ね合わせて、ゆがみを可視化した結果が距離ゼロを意味する青い部分が多ければ多いほど「精度」が良い、つまり何回印象しても結果のバラつきがなく、その印象データーが信頼できる、という事です。


歯科技工所で使用されるラボスキャナー、またはデスクトップスキャナーは現在の時点で「精度」に関しては満足すべき地点に来ています。以下はデンツプライシロナ社のinEosX5を使用した結果ですが、2回の印象間の合成結果はほぼ全面が青色という望ましい結果が得られています。


デンツプライシロナ社のinEosX5スキャナー

スワデンタルCAD/CAMセンターの主力機、デンツプライシロナ社のinEosX5スキャナー。

2013年に発売され、この分野では旧式と表現しても良い機体ですが、2023年現在においても最も正確度の高いモデルスキャナー。

複数回スキャンしたデーターを重ね合わせてゆがみを可視化

複数回スキャンしたデーターを重ね合わせてゆがみを可視化

inEosX5スキャナーの2回のスキャンデーターの合成結果

inEosX5スキャナーの2回のスキャンデーターの合成結果。ほぼすべての部分が距離ゼロで一致する青色で覆われています。

この何度やっても、誰がやっても「同じ結果」が得られるという精度の良さが光学印象の最大の特長です。

このような全面が青色というのが理想です。


ちなみにこの結果にバラツキがない、というのが光学印象の最大の特長で、印象材ではシリコン印象であっても精度において同等の結果を得ることは不可能と思われます。


デンツプライシロナプライムスキャン


まず石膏模型を対象としたプライムスキャンの結果を示します。


スキャン対象の石膏模型

スキャン対象の石膏模型

デンツプライシロナ、プライムスキャン

デンツプライシロナ、プライムスキャン

一部に30~40μ㎜のゆがみが見られるがほぼ全面が青色

一部に30~40μ㎜のゆがみが見られるがほぼ全面が青色。

結果はフリーハンドの口腔内スキャナーにも関わらず固定式のモデルスキャナーに匹敵。


スリーシェイプトリオス4


次にトリオス4の同じ模型を対象にしたテストの結果です。


スリーシェイプ、トリオス4

スリーシェイプ、トリオス4

全体にカラフルでinEos X5やプライムスキャンと比較してゆがみが各所にあることが分かる

全体にカラフルでinEos X5やプライムスキャンと比較してゆがみが各所にあることが分かる。顎の片側にゆがみが集中しているのは合成の基準点をどこのおいているかの差。しかし左右どちらかに合わせればどちらかがずれるという事でもある。


石膏模型は良いとして実際の口腔内では?


対象を固定できるラボスキャナーと比べて口腔内スキャナーが精度上、非常に不利な点はフリーハンドで操作しなければならない点と、相手が生きた顎であるということです。

それは唾液によってツルツルの表面、透明感のある歯質と歯肉、そして頬によって限定される撮影方向。これらの不利な要素によってスキャナーの性能の良し悪しの差が、より大きなデーターのゆがみとなって現れます。

それでは実際の患者を対象とした同様の試験の結果はどうでしょうか。


対象の口腔内。20歳代の女性歯科技工士

対象の口腔内。20歳代の女性歯科技工士。


まずプライムスキャンです。


おおむね石膏模型を対象とした場合と同等でロングスパンのブリッジが製作可能

さすがに条件が悪くなるだけに石膏模型と比べて2つのスキャンデーター間の差が大きくなる。

しかし決定的に大きなゆがみは見られず、おおむね石膏模型を対象とした場合と同等でロングスパンのブリッジが製作可能。

最後尾の7番付近にゆがみが集中するのは口腔内スキャナー全体の残念な特徴。


上のデーターの一部拡大

上のデーターの一部拡大。

口腔内スキャナーで実際にスキャンしたことがある人はわかると思いますが、立体的な形状の臼歯部はエラー無くスキャンができますが、そこから板状の形状の前歯部に移行する犬歯部でエラーが多発して先に進めない、という事が良くあります。

このデーターではその3-4間もゆがみなく撮れています。


次にトリオス4です。


片顎の補綴物製作までが適用

一枚一枚のスキャン範囲が小さい機種では、石膏模型のような撮りやすい対象の場合と、

口腔内のような撮りにくい対象の場合での結果の落差が大きくなる傾向があります。

特に立体状でスキャンしやすい臼歯部と、板状でスキャンしにくい前歯部との境目である犬歯部は口腔内スキャナーの最大の鬼門で、

ここで0.1㎜以上の不一致を示す紫色が出るほど大きくゆがんでいます。

この結果からは片顎の補綴物製作までが適用にふさわしいと思われます。

片顎の補綴物製作までが適用

上の不一致部分の拡大。これくらいゆがみます。


「エッジロス」の多寡が決める「スキャンの正確度」


つぎの観点は正確度、つまり対象をどれだけ正確に写し取ることができるか、という点です。

現在の光学印象では平面の部分はどの機種でも極めて正確にスキャンすることが可能です。問題は対象の薄くて尖っている部分で、ここで発生する「エッジロス現象」の多寡が機種間の正確度の差となっています。


以下は同じ石膏模型のインレー窩洞を異なる機種でスキャンした結果ですが、写真の右の機種では画像全体のエッジが「なめられ」状態なのが分かるでしょうか。このなめられがエッジロス現象です。

このなめられがエッジロス現象

このなめられがエッジロス現象

左のinEosX5のデーターはインレー窩洞のエッジが立っているが、右の他社スキャナーでは全体がなめられ状態です。この「なめられ」がエッジロス現象です。当然この現象が少ない機種ほど優秀です。


問題はこのエッジロス現象が起きやすい部分が支台歯の先端やマージン部の鋭縁など、「適合」に極めて関連する部分だということです。

鋭縁がエッジロス現象によって無いものとされたスキャンデーターで設計されたCADCAM補綴物は、実際にはそこにあるエッジと干渉してセット時に浮き上がります。


それでは同じ石膏模型を対象としたスキャンデーターを観察してみましょう。

対象の石膏模型とそのインレー窩洞

対象の石膏模型とそのインレー窩洞

右に行くにしたがってスキャンデーターがなめられていく

エッジおよび奥まった部分の再現性に注目してください。

右に行くにしたがってスキャンデーターがなめられていくのが分かるでしょうか。

エッジロスの多さはTrios4 ≧ Primescan ≧ inEosX5となります。

右に行くにしたがってスキャンデーターがなめられていく

上の写真の拡大


このような観点で見るとプライムスキャンの結果は口腔内スキャナーとしては非常に優秀です。つまりデンツプライシロナ社は口腔内スキャナーの製作に関して、他社に対してかなりの技術的なリードがあります。


「診療のデジタル化」か「補綴の効率化」か


口腔内スキャナーの使用目的は、大きく分けて現在使用している印象材の代わりとする事と、歯科診療室のデジタル化の2つがあると思います。

スキャナーによる印象データーの特徴の一つに単に補綴物設計に用いるだけでなく、診断や患者説明、治療結果のシミュレーションなどに、石膏模型と比べて短時間に、材料を使わず低コストで手軽に利用できるという目的の多様性があります。

この目的の多様性に加えてスキャナーを使って術者と患者の印象採得の負担軽減というのが「歯科診療室のデジタル化」の効果です。


そして各社の口腔内スキャナーを見くらベていると、この2つの目的をどれぐらいの配分にして製品に含めるかはメーカーごとにかなりの違いがあり、大別して2系統の製品があるという事に気付きます。


1つは印象材との置き換えに耐えうるだけの性能を持ち、もちろん歯科診療室のデジタル化も可能な高級機です。そしてもう一つは「歯科診療室のデジタル化」を主な目的とした安価な機種です。つまり価格を抑えるために正確度はほどほどで、スキャンスピードの速さを特徴にする機種です。


問題はこの系統の違う製品が見かけも機能も非常に似ていて判別が難しいことにあります。身近な感覚でこれに近いものを探すと、普通自動車と軽自動車の差がこれに近いです。

双方とも車体にエンジン、キャビン、タイヤが4つと構成が同じで見かけは似ており、ハンドルとペダルという操作系も操作方法も、走るという操作目的も全く同じです。しかし最大速度などの性能や、搭乗者の乗り心地、そして衝突安全性などが決定的に異なります。

そして安価な軽自動車でもドライバーが頑張れば、普通自動車と同じようなパフォーマンスで運転できそうに見える点も口腔内スキャナーの場合とよく似ています。


口腔内スキャナーの導入を考える場合、使用目的に合わせた製品の見極めが大変に重要です。もし現在の印象材と置き換えて効率の良い補綴診療を目指すなら、スキャンの正確さは欠かすことは出来ません。その場合はぜひ基本性能の高さ、つまり「正確度」を重視して口腔内スキャナーを選択してください。


新型機は両社ともスキャン能力は従来機から進化なし


それでは今年のIDSで発表されたそれぞれの新型を現地で操作した感想ですが、スリーシェイプ社のトリオス5は今回のバージョンアップは小型化・軽量化が主な改良点のようで、スキャンの能力に関してはトリオス4と同等という説明でした。


スリーシェイプ社のブース前の大写真

スリーシェイプ社のブース前の大写真。上から順にトリオス3、トリオス4、トリオス5。

トリオス5がすごく小く見えるように配置されていますが

実物はこれくらいです

実物はこれくらいです。


トリオス5のデモスキャンの結果

トリオス5のデモスキャンの結果。荒れた表面、抜けた歯間部、噛み合わないバイト。


デンツプライシロナ社の新型プライムスキャンコネクトもメーカーの説明によれば従来機のプライムスキャンとスキャン能力は同等という事でした。

ただ専用筐体からノートパソコン接続式にしたことで大幅な価格低減を実現したようです。(プライムスキャン約680万円→プライムスキャンコネクト約380万円)


プライムスキャンコネクト

プライムスキャンコネクト

スキャン対象がゴルフボールのような難しいものでも

スキャン対象がゴルフボールのような難しいものでも

どんどんエラーなく合成していく

どんどんエラーなく合成していく。その速さ正確さと、つかんでいる指を合成からはじく能力の強さ。


上のテストに見るようにすでに十分な性能の優位を持つデンツプライシロナ社製の口腔内スキャナーですが、これがこの低価格で発売されるとなると、スワデンタルの顧客のシェア優位は揺るがないどころかますます促進することになりそうです。

現地で対応してくれたインストラクターも「この製品が君の国で発売されれば市場を席捲するだろう」という、これまでのデンタルショーでは聞いたことがない程に自信に満ちた発言でした。


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