「できるだけ白く、と言われたのでそのようにしたら、白すぎると再製になった」
これはもはや鉄板と言っていい歯科技工あるあるです。
そして昨年12月に保険適用となったPEEK冠を見ていると、何やらこの予感がはたらきます。
このような理由での再製作は患者、歯科技工士、歯科医師の3者すべてにとっての不幸です。そしてこれはこの3者の間にある「白い」に対しての認識の差が原因です。
もし事前に材料そのものを使ったシェードガイドがあり、こんな感じになりますよ、というデモンストレーションが行えれば、この3者の認識の差を埋めることが出来そうです。
そこで比色が可能なPEEK冠のオリジナルシェードガイドを製作しました。
基本的な製作方法はCAD/CAM冠用のオリジナルシェードガイドと同じです。シェードガイドは歯冠部とバー部分、歯肉ソケットの3つの主要部品から成り、歯冠部はEXOCADで、残り二つを一般用の3Dモデリングソフト「Blender」で設計します。
設計は弊社CAD/CAMセンターのデジタル歯科技工士、三浦和也君が行いました。
歯冠部は加工機によるミリングで、バー部分と歯肉ソケットは3Dプリンターで出力します。
歯冠部のミリング
今回の納品先ではクラスⅣCAD/CAM冠にクラレノリタケデンタルのカタナアベンシアNを選択されています。これらのクラスⅣブロックの加工にはCAMにHyperDENT、加工機にMD-500Sを使用します。
ところがMD-500SでPEEKブロックを加工しようとして問題が発生しました。
この歯冠部はEXOCADで設計した際に「インレー」として設計されており、クラスⅣ冠としてはMD-500Sで加工できるのですが、HyperDENTにテンプレートが用意されていないためにPEEKブロックではインレーが加工できません。
これはPEEK冠は現在のところクラウンのみの適応ということに由来する措置と思われます。
機械の使いやすさを左右するCAMの使い方の幅
幸いなことに弊社ではHyperDENTとMD-500Sの組み合わせの他に、Millboxとエクスマイルの組み合わせがPEEK冠の加工に使用できます。
こちらのMillboxとエクスマイルの組み合わせでは、たとえ元データーがインレーであってもPEEKブロックで加工が可能です。
加工が終了した歯冠部。
スプルーカット後。この後通法に従って研磨します。
研磨後の歯冠部。
どうせ作るならば
さて今回製作しているシェードガイドは、CAD/CAM冠の治療後の視覚的イメージを伝えるツールとしても働くわけですが、そうすると比色の対象として12%金パラジウム銀合金冠やチタン冠などの金属冠も、当然あり得ます。
同じCADデーターでミリング加工されたチタンの歯冠部。
これも通法に従って研磨します。
歯肉ソケットとバー部分の出力
次にバー部分と歯肉ソケット部をPhrozen Sonic 4Kで出力します。
歯肉ソケットはへレウスのディーマデンチャーベースで出力します。
歯肉ソケットは松風ガミーをお手本に設計されています。松風ガミーはシェードガイド3本のセットですが実際のシェードテイキングでは多少の不便を感じていたので、この歯肉ソケットは4本セットできるように増設されています。
今回の歯肉ソケットは前回の反省を生かした改良版で、ナンバー読み取り用の窓が設けられ、バーのテンションも調節されています。
バー部分は歯冠部の色調に影響を及ぼさないよう透明レジンで出力します。
積層造形されたディーマデンチャーベースの研磨感は相当に硬く、研磨にはジルコンブライトを使用します。
積層造形された歯肉ソケットは気泡なども存在せず、非常な艶がでます。
歯冠部とバー部分の接着操作
研磨が終了したら、あとは歯冠部とバー部分を接着すれば完成です。
クラスⅣブロックの場合は接着表面にサンドブラストとシランカップリング処理を行えば強固に他レジンと接着します。
問題はPEEK冠で、ほとんどフィラーを含まないのでシランカップリング処理の効果が期待できず、専用のアドヒーシブ材を使用する事が定められています。
このアドヒーシブ材は通常は黄色の非常に粘性のある液体で、エアブローを行ってもなかなか薄く伸びず、しかも光重合を行う必要があるので、クラウン内面に溜まって適合が浮くことが懸念されています。
そこでPEEKブロックのサンドブラスト処理された面に滴下して、実際にどのような挙動なのか試してみました。
CAD/CAMレジン用アドヒーシブは通常のアドヒーシブ材と比較して非常に伸びが良く、シランカップリング液ほどでないにしても、ほぼ同様の感覚で使用できます。
またエアブローで非常に薄い皮膜を形成できるので、内面に溜まる心配はなさそうです。
では効果のほどはどうでしょうか。
ブロックの削り残しの面を600番の耐水ペーパーで平らにして、ここにレジングレーズが乗るかどうか試してみました。
すると処理なしの物は重合するとクラックが入り、力を加えるとパリパリと剥がれます。
サンドブラストとCAD/CAMレジンアドヒーシブで処理したものは、効果はあるようですが、サンドブラストとシラン処理されたクラスⅣブロックほど強固ではなさそうです。
特に塗布したレジンが厚い部分では剥がれやすく、これは我々の側の課題ですが、乗せるレジン(つまり内面のセメントスペース)をできるだけ薄く、均一になるようにすることが必要と思われます。
PEEKの歯冠部。内面にサンドブラスト、CAD/CAMレジン用アドヒーシブを使用後、接着します。
クラスⅣ冠も通法に従って接着します。
完成したシェードガイド。
歯肉ソケットとのセット。
実際の口腔内への対比
実際の歯列に当ててみると、PEEKの白浮きや金属の異質感がどれほどのものか、即座に了解できます。
またクラスⅣ冠ではより直接的なシェード選択が可能です。
通法のビタクラシカルシェードガイドとガミー。左二つはA1、A2で上の写真と表記は同じですが、実際のアベンシアNのA1とA2とではかなり差があることが分かります。
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